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大阪高等裁判所 昭和50年(ラ)33号 決定 1975年10月08日

抗告人 小林将

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一、本件抗告の趣旨は、「原決定を取り消す。」旨の裁判を求めるというにあり、その理由は別紙記載のとおりである。

二、当裁判所の判断

抗告人は、要するに、本件免責の申立は破産宣告並びに破産廃止決定の確定後既に一か月以上経過しているとしても、抗告人は昭和四九年九月一〇日に公告がなされていることを知りえなかつたもので、同年一一月一五日に右決定正本を受領して始めて右決定を知つたものであるから、破産法第三六条の二第五項により本件申立は認容されるべきである旨主張する。

そして、大阪地方裁判所昭和四九年(フ)第七三号破産申立事件記録並びに本件記録によれば、大阪地方裁判所は、昭和四九年九月二日午後一時に抗告人主張の破産宣告並びに費用不足による破産廃止の決定(以下単に右決定又は前記決定という。)を同時になし、同年九月一〇日付官報のほか、右決定を破産法第一一五条第一項所定の新聞として同年九月六日付日本経済新聞に掲載して同法第一四五条第一項後段所定の公告をなしたこと、その後右決定に対する不服申立はなかつたこと、抗告人が原審に本件免責の申立をしたのは昭和四九年一二月七日であること、並びに破産者である抗告人が右決定正本の送達を受けたのは同年一一月一五日であることが認められる。

ところで、破産法一一一条、第一一七条、第一一八条によると、破産手続に関する裁判は職権で送達しなければならないが、送達をなすべき場合においては公告をもつてこれに代えることができ、公告のほか送達をなすべき場合においても公告は一切の関係人に対し送達の効力を生ずることとなる。そして、破産法第一一二条後段にいわゆる「裁判ノ公告アリタル場合」とは、「破産者に決定正本を送達するとともに右裁判の公告のあつた場合を含む」ものと解するのが相当であるし、また同条後段の「公告アリタル日ヨリ起算シテ」とある「公告のあつた日」とは、公告の掲載せられた日ではなく、公告の効力を生じた日であると解するのが相当である。蓋し、同法第一一五条第二項、第一一六条後段に規定するとおり、公告の効力の生ずるのは常にその日の午前零時であるから、公告の効力の生じた初日を算入することとなるわけである。従つて、前記決定正本を抗告人が受領した日に関係なく、前記決定は昭和四九年九月二四日の経過により確定しており、前記認定事実によると、本件免責の申立は同法第三六六条の二第一項所定の期間を徒過してなされたものといわねばならない。

破産者たる抗告人は、前記決定正本の送達がなされて初めて前記決定のなされたことを知つたもので、右送達のおくれたことをもつて同法第三六六条の二第五項所定の事由として主張するのであるが、前判示のとおり、前記決定の告知は同法第一四五条第一項後段によりこれを公告するのであるから、抗告人が前記決定正本の送達を受けるまで右決定がなされたことを知らなかつたことのみをもつて同法第三六六条第五項所定の事由が存したということはできないし、抗告人は、他に同項所定の事由を何ら主張しないところ、前記各記録を精査しても右事由が存することを認めるに足りる資料も存しないので、抗告人に同項所定の事由が存したとは認められない。従つて、抗告人の右主張は採用するに由なく、抗告人の本件免責の申立は不適法な申立として却下すべきものである。

よつて、本件申立を却下した原決定は相当であつて、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判官 北浦憲二 弓削孟 光広龍夫)

(別紙)抗告の理由

一、抗告人は昭和四九年四月一九日頃大阪地方裁判所に自己破産の申し立てをし、昭和四九年一一月一五日破産並びに同時廃止の決定正本を受領した。

右決定の日付は同年九月二日であつた、それで抗告人は債務免責の申立をするため決定の確定日を問合せたところ、破産宣告同時廃止の公告が同年九月一〇日にされていて右決定は同年一〇月二三日に確定し、免責申立期間は既に経過していることが判つた。

二、そこで抗告人は破産法第三六六条の二第五項の規定にもとづいて免責の申立をしたが同裁判所は期間経過後の申立であるとの理由によつて右申立を却下した。

右、却下決定に対し抗告人は本件の抗告をした。

事実は以上の通りである。

三、免責申立が遅れたのは形式上は兎も角、事実上は決定正本の送達を受けたのが申立期間経過後であつたことによる

四、そして原裁判所はこの場合、破産法第三六六条の二第五項の規定はあてはまらないと判断された、

然し抗告人は直接の申立人であるから不利益を受けることなく裁判の結果を確知し得る状態に置かれるべきであると考えるので裁判の通知が遅れた本件の場合破産法第三六六条の二第五項の規定をあてはめて適用され、免責の申立を許容さるべきであると考える。即ち、同条の責に帰すべからざる事由、というのが抗告人において前記裁判があつたことを知り得なかつた事が無理ではなかつたという事であり、その事由の止みたるという事が決定正本を受領したことであると解釈し同条を適用されるべきであると考える

五、本件の場合事実はとも角申立人は少くとも審尋を受けた以後公告に気を付けるべきであると云うことにあると思うが果たして常識上この様に云えるであろうか、

本件は同時廃止の裁判がされているのであるが、抗告人としては同時廃止はもとよりのこと、破産宣告がされるかどうかも判らない状態で、従つて公告がされるかどうか、されるとしても何時頃であるか見当がつかないのであるから審尋以後終始見落としなく公告を見付けることは不可能に近いと云い得る。

六、他方債権者にとついて債務者の破産宣告同時廃止の裁判によつて自己の債権に何の影響も受けない、免責の手続においては債権者は審尋期日を定める決定の送達を受けるからその申立があつたことも知ることが出来従つて手続上不利益を受けることはない、然し破産者は裁判の結果如何によつて大きな影響を受けるから裁判の告知をうけることは重要な意味を持つ。

七、破産手続において公告と共に遅滞なく裁判の通知をすることになつているが、裁判書の送達は実際上何らかの事情で遅れることは有り得ることである、一般の裁判手続にあつては送達によつて上訴期間等の期間が進行し期間の初日が明確安定的であつて当事者が不利益を受けることはない

本件の場合公告を以つて送達に代えられることになつているため当事者にとつて裁判告知の日が明確安定的ではない、之は裁判書送達の遅延というよりも寧ろ法規の定めが不完全であるからでありこのため抗告人は手続上不利益を受けることになつた

そこで法律の規定と常識上実際上の間隙を埋め法の不備を補うために破産法第三六六条の二第五項の定めがあり、本件の場合正に之を適用解釈されて然るべしと考へる

八、以下に蛇足乍ら抗告人の実状を陳述します。抗告人は薬品製造輸出をしていたものでありますがドルシヨツクで倒産し以後朝夜を問わず債権者の取立屋につけまとわれ脅かされ新しく勤めた先へも押しかけて来られ勤めることも出来なくなりそのため家内から離婚の調停を出され更に訴訟になり最近離婚の判決をうけました。これでは倒底再起をはかることも出来ずそれ処か生活も維持出来なくなつたのでやむを得ず破産の宣告を受けこの際債務免責を得て再起をはかりたいと考え自己破産の申立をしました。

もとより免責を得ても再起が出来たときは債権者に僅かづゝでも弁済するつもりです

九、抗告人は審尋をうけた以後破産宣告があるだろうかどうか案じ乍ら、その頃丁度、日本熱学の事件もあり審査にひまがかゝるであろうと思つて待つていた処、破産宣告並びに同時廃止の決定正本を受け取りました。

そこで直ぐに免責の手続をしようと思つて裁判所へ問合わせてもらつた処、既に決定は確定し免責申立期間が過ぎていることが判りました。

それで何とかと思つて調べた処、三六六条の二第五項の定めがあつたので抗告人の場合当然適用がされるであろうと思つて免責の申立をした処却下された次第であります。

一〇、抗告人としては公告に気をつけなかつたのが不注意と云われても第一破産宣告が認められるかどうかも判りませんし気のつけようがありません。若し破産宣告が先にされていれば以後気をつけるなり裁判所へ問合わせるなりして確定の日を知ることが出来ます

この点常識的に納得出来ないところであります。それは別としても他に方法がなければ仕方がありませんが三六六条の二第五項の規定があるのでこれをあてはめて考へて頂き度いと思う次第です。

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